「朝はあまりお腹が空かないから、コーヒーだけ」
「昔から朝ごはんを食べない習慣だから、今さら変えなくても大丈夫」
そんな方はいらっしゃいませんか?
若いころには何ともなかった食生活でも、年齢を重ねると事情が少し変わってきます。特に高齢になると、食べる量そのものが減りやすく、1食抜いてしまうことで1日に必要なエネルギーやたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどを確保しにくくなることがあります。
大切なのは、「朝から豪華な食事を食べなければならない」と考えることではありません。
食欲がない方なら、まずは食べられるものを少しずつ。今回は、70代以降の方にも実践しやすい「朝ごはんの整え方」を管理栄養士の視点からわかりやすくご紹介します。
この記事でわかること
- 高齢になると朝ごはんを抜くことに注意したい理由
- 食欲がない朝でも栄養をとりやすくする具体的な方法
- 食欲低下や体重減少で医療機関などへ相談したほうがよい目安
高齢になると「食べる量」が減りやすくなります
年齢を重ねると、「以前ほどたくさん食べられなくなった」と感じる方が増えてきます。
その背景には、活動量の低下だけでなく、食欲の低下、噛む力や飲み込む力の変化、味覚や嗅覚の変化、病気や薬の影響、買い物や調理の負担、一人暮らしによる食生活の変化など、さまざまな要因があります。
2026年に公表された国立長寿医療研究センターの研究紹介でも、高齢者では口腔機能の低下や抑うつ症状など、さまざまな要因によって肉、魚、豆類、野菜、果物などの摂取が少なくなる可能性が報告されています。
そのため高齢期では、「食べすぎないこと」だけに気を取られるのではなく、必要な栄養まで不足していないかという視点も大切になります。
「1日2食以下」とフレイルの関係を調べた研究もあります
ここで注目したい研究があります。
国立長寿医療研究センターは2025年、中年期の欠食習慣と高齢期の身体的フレイルとの関係について調べた研究結果を公表しました。
ちなみに、フレイルとは「もう少しで介護が必要になってくる状態」と思ってください。
この研究では、「1日2食以下」を欠食ありとして過去の食習慣を調べたところ、中年期に欠食習慣があった人では、高齢期の身体的フレイルとの関連が認められました。
ただし、ここは誤解しないことが大切です。
この研究から「朝食を抜いたことが直接フレイルを引き起こした」と断定できるわけではありません。食事回数が少ない人には、生活習慣や健康状態など別の要因が関係している可能性もあります。
それでも、食事の回数が少なくなることで、1日に必要な栄養を確保しにくくなるという点は、高齢期の食生活を考えるうえで重要です。
そもそも「フレイル」とは?
フレイルについてちょっと詳しくご紹介しましょう。
フレイルとは、年齢を重ねることで心身の力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間にある状態をいいます。
たとえば、
- 以前より体重が減ってきた
- 疲れやすくなった
- 歩く速度が遅くなった
- 外出する機会が減った
- 筋力が落ちてきた
といった変化がみられることがあります。
フレイルは「年だから仕方がない」と決めつける必要はありません。早めに気づき、食事、運動、社会参加など生活全体を見直すことで、状態の改善や悪化予防につながる可能性があります。
朝食の役割は「1日の栄養を3回に分けること」
「朝食には特別な健康効果があるから絶対に食べなければならない」と考えるより、高齢者の場合は1日に必要な食事を無理なく分散してとる機会と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば、1日に必要な栄養を夕食だけでまとめてとろうとしても、一度に大量に食べるのは大変です。
朝・昼・夕の3回に分ければ、1回あたりの量を抑えながら、エネルギーやたんぱく質などを補いやすくなります。
特に食が細くなっている方では、「1回にたくさん食べる」のではなく、「食べる機会を確保する」という発想が役立ちます。
高齢者の朝食で意識したいのが「たんぱく質」
朝食というと、パンだけ、ご飯と漬物だけ、コーヒーだけという方もいらっしゃいます。
そこで少し意識していただきたいのが、たんぱく質を含む食品です。
たんぱく質は筋肉だけではなく、皮膚や臓器など体をつくるために必要な栄養素です。高齢期に筋肉を維持していくためにも、食事から適切にとることが大切です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、65歳以上について、たんぱく質の目標量は1日の総エネルギー摂取量に占める割合として15~20%とされています。
ただし、必要量は体格、活動量、病気の有無などによって異なります。特に腎臓病などで食事療法を行っている方は、自己判断でたんぱく質を増やさず、医師や管理栄養士の指示を優先してください。
朝食に取り入れやすいたんぱく質食品
難しく考える必要はありません。
- 卵
- 納豆
- 豆腐
- 牛乳
- ヨーグルト
- 魚
- 肉
など、普段食べ慣れている食品から1品だけでも良いので、選んでみましょう。
たとえば「ご飯と味噌汁だけ」という方なら納豆や卵を追加する。「パンとコーヒーだけ」という方なら牛乳やヨーグルト、卵などを組み合わせる。それだけでも食事内容は変わります。
食欲がない朝に試したい7つの工夫
1.最初から「完璧」を目指さない
食欲がない方にとって、「朝からご飯、味噌汁、焼き魚、野菜を全部食べましょう」と言われても負担になってしまいます。
まずは食べられる量から始めましょう。
小さなおにぎりと卵、ヨーグルトと果物など、少量でも構いません。「ゼロから少しへ」という考え方が大切です。
2.調理しなくても食べられるものを常備する

朝食を食べない理由が「面倒だから」という方も少なくありません。
納豆、ヨーグルト、牛乳、チーズ、果物など、準備に手間のかからない食品を上手に利用すると続けやすくなります。
3.主食だけで終わらせない

パンだけ、おにぎりだけ、麺だけでは、食事内容が偏りやすくなります。
そこへ卵、乳製品、大豆製品、魚や肉など、たんぱく質食材を一品加えることを意識してみましょう。
4.温かいものを一品取り入れる

特に寒い季節は、温かい味噌汁やスープなどを加えると食べやすくなる方もいます。
具材を入れれば、野菜や豆腐なども一緒にとることができます。
ただし、高血圧などで塩分を控えるよう指示されている方は、汁物の量や味付けに注意しましょう。
5.朝起きてすぐ食べられなければ、少し時間を置く

起床直後には食欲が出ない方もいます。
生活上可能であれば、着替えや身支度を済ませてから食べるなど、自分が食べやすい時間を探してみましょう。
6.「食べられない理由」を考えてみる
食欲がない原因を単なる年齢のせいにしないことも大切です。
歯が痛い、入れ歯が合わない、飲み込みにくい、便秘が続いている、気分が落ち込む、薬を変更してから食欲がない、といったことはありませんか?
もし歯など噛むことに問題があるなら、豆腐にしてみるなど工夫してみましょう。
原因が解決できれば、食事量が改善する場合があります。
7.朝食だけでなく「1日全体」で考える
朝食を食べれば、それだけですべて解決するわけではありません。
朝・昼・夕を通して、主食、主菜、副菜などを組み合わせ、いろいろな食品をとることが基本です。
「朝食を食べたから昼食は軽くていい」ということではなく、1日全体で必要な栄養が不足していないかを考えましょう。
こんなときは「年齢のせい」で済ませないで
高齢者の食欲低下には、病気や口腔機能、薬、精神的な問題などが隠れている場合があります。
特に、
- 特にダイエットをしていないのに体重が減っている
- 以前より明らかに食べる量が減った
- 食事中によくむせる
- 飲み込みにくさを感じる
- 歯や入れ歯の問題で食べられない
- 強いだるさが続く
- 気分の落ち込みとともに食欲がなくなった
- 病気や薬の変更後から食欲が落ちた
といった変化がある場合は、自己判断で様子を見続けず、かかりつけ医、歯科医師、管理栄養士などに相談しましょう。
朝ごはんは「完璧」より「続けられること」
健康のための食事というと、つい「○○を食べなければ」「栄養バランスを完璧にしなければ」と難しく考えてしまいます。
しかし、食欲が落ちている高齢者にとっては、完璧な朝食を目指すことが負担になる場合があります。
昨日まで朝はコーヒーだけだった方なら、まずヨーグルトを一つ加えてみる。
パンだけだった方なら、卵や牛乳を加えてみる。
ご飯だけだった方なら、納豆や豆腐を追加してみる。
そんな小さな変化からで十分です。
高齢期では「食べすぎ」に注意するだけではなく、「知らないうちに食べる量が減りすぎていないか」という視点も忘れないようにしましょう。
朝・昼・夕と食べる機会を上手に利用し、無理なく必要な栄養を確保していくことが、元気な毎日を支える一つの方法になります。
参考文献・情報源
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」、2024年公表
- 厚生労働省「食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業」
- 国立長寿医療研究センター「高齢期の身体的フレイルと過去の欠食習慣(1日2食以下)との関連についての調査研究」、2025年10月15日
- 国立長寿医療研究センター「高齢者の不健康な食習慣に関連する要因についての文献レビュー」、2026年
- 国立長寿医療研究センター「ロコモフレイル外来」





