
超高齢化社会を迎えた日本。近年、認知症は「予防できる時代」に入りつつあります。かつては不可避と考えられていたこの病気も、食事・運動・睡眠・社会的つながりの改善によって、発症リスクを減らせることが明らかになっています。この記事では、WHO(世界保健機関)や国立長寿医療研究センターなどの科学的知見に基づいて、認知症予防のために実践すべき具体的な方法を解説します。この記事を作成している2025年現在の情報をまとめました。ぜひ参考にしてください。
1. 認知症とは何か? ― 物忘れとの違い
認知症とは、脳の神経細胞がさまざまな原因で徐々に損なわれ、記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態を指します。医学的にはこの状態が少なくとも6か月以上続く場合に「認知症」と定義されます
普通の物忘れでは「忘れたこと」に自分で気づくことができますが、認知症では「経験した出来事そのもの」を忘れてしまうため、自覚がない点が大きな違いです。
中核症状とBPSD(行動・心理症状)
認知症の症状は「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」の2つに分けられます。
- 中核症状: 記憶障害、見当識障害(時間や場所がわからない)、判断力低下、実行機能障害などが見られます。
- BPSD: 不安・怒りっぽさ・幻覚・徘徊・睡眠障害など、精神的・行動的な変化が生じます。
特にBPSDは周囲にとっても負担が大きく、否定や叱責は逆効果になる場合もあります。専門家は「本人の気持ちに寄り添い、安心できる環境を整えること」が重要だと強調しています。
2. 日本の認知症患者数と社会的課題
厚生労働省の推計によると、2012年時点で65歳以上の認知症の人は約462万人でしたが、2025年には約650~700万人、つまり高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています
介護への影響
要介護者の増加とともに、介護の中心的原因は認知症です。要介護認定者数は2000年の約218万人から、2018年には約644万人に増加。家族の介護負担も急増しており、介護離職や介護うつなど深刻な社会問題も報告されています。
安全・事故のリスク
警察庁によると、2024年に全国で届け出のあった認知症による行方不明者は1万8121人。このうち491人は死亡が確認されており、その多くは自宅から5km圏内で発見されています。地域での見守り体制やGPS機器の活用が今後ますます重要になります。
共生社会への取り組み
政府や自治体では「認知症サポーター養成講座」や「認知症カフェ」の設置を推進。地域で支え合う共生社会の構築が求められています。
3. 認知症がもたらす影響と注意点
日常生活への支障
服薬ミス、金銭トラブル、火の不始末、運転事故など、日常生活でさまざまな危険が伴います。特に火災や徘徊事故、交通事故などは深刻で、早期の対策が不可欠です。
本人の心理的影響
認知症の方は、できていたことができなくなる喪失感や混乱、不安を抱えがちです。「否定せず受け止める」姿勢が、本人の安心感を支えます。
家族への影響
介護者のストレスや睡眠不足、経済的負担は非常に大きいです。レスパイトケア(介護者の休息)や地域包括支援センターなどの制度的支援を早めに活用することが大切です。
4. 認知症の主な原因と予防のヒント
アルツハイマー型認知症
最も多いタイプで、脳内に「アミロイドβ」や「タウ」などの異常タンパク質が蓄積し、神経細胞が破壊されていきます。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などで血流が途絶え、脳組織が損傷することで発症します。部分的に記憶が保たれる「まだら認知症」が特徴です。
混合型認知症と生活習慣病の関係
多くの高齢者は、変性型と血管性の両方が関係しています。高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は認知症リスクを高めるため、生活改善が重要です。特に中年期からの血圧管理が将来の予防につながります。
その他の原因
アルコール多飲、ビタミンB1やB12の欠乏、甲状腺機能低下症、頭部外傷なども認知症を引き起こすことがあります。治療可能なタイプもあるため、「最近物忘れが増えた」と感じたら早期受診が大切です。
認知症の対策方法2025年版
アルツハイマー型認知症の発症要因には、「脳の変性」だけでなく、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病が関係しています。これらの病気は血管の老化を進め、脳への酸素や栄養の供給を妨げるため、神経細胞の機能低下を早めると考えられています。
実際、フィンガースタディ(FINGER Study:2015年)と呼ばれる国際的大規模研究では、食事・運動・脳トレ・社会参加・血圧管理などを組み合わせた介入によって、軽度認知障害(MCI)の進行を抑える効果が確認されています。
①食事で脳を守る
認知症対策だけでなく、食事管理は健康の大原則です。中でも一番大切なのはバランス良く栄養素をとること。健康な脳とカラダは栄養素のバランスが整ってこそ維持できるものです。ただ、今回は特に「健康な脳の維持」に重点を置いたポイントを紹介しておきます。
オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を積極的に
青魚(サバ・イワシ・サケなど)に含まれるDHA・EPAは、神経細胞の炎症を抑え、脳の血流を改善します。日本神経学会によると、週2~3回の魚摂取は認知症の発症率を約20~30%低下させると報告されています
ビタミンB群でホモシステイン値を下げる
ビタミンB6・B12・葉酸の不足は、血中ホモシステイン値を上昇させ、脳血管障害や神経変性を促進します。大塚製薬の栄養データによると、これらの栄養素を十分に摂ることで、認知機能低下のリスクを20%以上抑えられる可能性があります
MCTオイル(中鎖脂肪酸)とココナッツオイルの新知見
MCT(中鎖脂肪酸)は、脳のエネルギー源となる「ケトン体」を増やし、エネルギー代謝を改善します。認知症ねっとの報告によると、MCT摂取により軽度認知障害者の記憶スコアが有意に向上した研究結果が示されています
抗酸化食材を毎日の食卓に
緑黄色野菜、ベリー類、カカオポリフェノールは脳の酸化ストレスを抑制します。特にカカオ70%以上のチョコレートには神経保護作用があり、認知機能改善に寄与するとの報告もあります
②運動が脳を若返らせる ― 1日30分の「有酸素+筋トレ」
運動は脳への血流を増やすだけでなく、神経栄養因子(BDNF)の分泌を促し、記憶力の維持に役立ちます。週3回以上のウォーキングや軽い筋トレを行うことで、認知症リスクが約40%低下するという報告もあります。
- おすすめ運動: 1日30分の早歩き、スクワット10回×3セット、ストレッチなど
- ポイント: 継続が最も重要。5分でも毎日動くことから始めましょう。
③質の高い睡眠が脳を守る
国立長寿医療研究センターによると、睡眠中に「アミロイドβ」が脳から排出されます。慢性的な睡眠不足は、この老廃物の蓄積を進めることが確認されています
目安は1日7時間前後の睡眠。寝る直前のスマートフォン使用やアルコール摂取を控え、夜間のトイレ対策として温度・照明も調整しましょう。
④脳を活性化させる「社会的交流」と「知的活動」
WHOが推奨する12項目の認知症予防策のうち、社会参加と認知活動の維持は特に重要です
- 家族・友人との会話を意識して増やす
- 地域サークルやボランティア活動に参加
- 新聞・本の音読、パズル、囲碁・将棋などで脳を刺激
米国アルツハイマー協会の研究では、「人との会話時間が長い人ほど認知機能が高く保たれる」ことが明らかになっています。
生活習慣の総合改善で「脳の老化」を防ぐ
認知症のリスクを減らすには、「食事」「運動」「禁煙」「節度ある飲酒」「社会活動」「睡眠」「生活習慣病の管理」を組み合わせることが最も効果的です。WHOの報告によれば、これらを実践する人は、認知症発症リスクが平均で30~50%低いとされています
高齢になってからでも決して遅くありません。脳は何歳からでも変わる力を持っています。
おわりに ― 今日からできる小さな一歩を
認知症予防は「特別なこと」ではなく、日々の暮らしを見直すことから始まります。魚を食べる、外を歩く、人と話す――その一つ一つが脳を守る大切な習慣です。無理なく続けられる範囲で、少しずつ生活を整えていきましょう。
参考文献・出典
- 国立長寿医療研究センター「食事と認知機能(認知症予防)」
- 厚生労働省 eJIM「認知機能、認知症、アルツハイマー病のためのサプリメントについて」
- 日本神経学会「ビタミン欠乏症による認知機能低下の特徴」
- WHO「認知症予防のためのリスク低減ガイドライン」
- 認知症ねっと「MCTオイルの最新研究」
- 大塚製薬「ビタミンB群不足とホモシステインの関係」
- 睡眠プライマ「睡眠と認知症の関係」