『不飽和脂肪酸』という名前を聞いたことはありますか?
不飽和脂肪酸とは脂質成分で、カラダの中で合成できないため、食品の中から摂取しなくてはいけないものです。
『必須脂肪酸』とも言われ、コレステロールの悩みをサポートするなどの作用を持ちますが、中には注意しなくはいけないものがあるのです。
それが『リノール酸』。
これまでリノール酸は健康に役立つといわれてきましたが、近年の研究によって過剰摂取による危険性があることがわかってきたのです。
そこでこのページではリノール酸について、効果や過剰摂取の危険性にスポットをあてて管理栄養士がご紹介していきます。
リノール酸ってどんなもの?
リノール酸という名前は聞いたことがあっても、どんなものかを知らない人は多いと思います。
リノール酸とは多価不飽和脂肪酸のひとつです。
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類がありますが、リノール酸は不飽和脂肪酸の分類になります。
さらに、構造が『n-6系』といわれる二重結合をもっており、不飽和脂肪酸の中でも『多価不飽和脂肪酸』に分類されます。
リノール酸はカラダの中で合成できないため、食べ物から摂取する必要がある『必須脂肪酸』とも呼ばれます。
n-6系不飽和脂肪酸には、リノール酸のほかにも『γ-リノレン酸』、『アラキドン酸』がありますが、これはリノール酸の代謝産物で、日本人が摂取するn-6系の98%はリノール酸です。
代表的な作用は、摂取することでコレステロールの低下が確認されています。
コレステロールにはLDL(悪玉コレステロール)とHDL(善玉コレステロール)の2種類が存在していますが、どちらのコレステロールも低下させます。
リノール酸が含まれるもの
私たちが普段気軽に買える食品で、リノール酸が多く含まれているものは以下のようなものがあります。
※100gあたり
・ひまわり油・・・58,000mg
・綿実油・・・54,000mg
・とうもろこし油・・・51,000mg
・大豆油・・・50,000mg
・ラー油・・・4,300mg
・ごま油・・・4,100mg
・サラダ油・・・34,000mg
リノール酸の摂りすぎによる危険性
糖尿病に対する有効な研究報告がある反面、摂りすぎによる健康リスクも指摘されています。
日本脂質学会によれば、リノール酸の摂りすぎによって以下のようなリスクがあることが発表されています。
- 心臓病
- 脳血管系疾患
- 欧米型がん
- アレルギー性疾患
2003年、脂質栄養学会は「リノール酸を削減する方向に転換する」ことを世界で初めて発表しています。
脂質栄養学会の初代会長、奥山治美先生によれば、リノール酸の摂りすぎとα-リノレン酸の摂取量が少ない場合、動脈硬化や心臓疾患、アレルギー過敏症、欧米型がんのリスクになるといいます。
リノール酸はプロスタグランジンやロイコトリエンといった物質をつくるため、炎症が誘発される危険性があるのです。
実際に子供(6~15歳)を対象にした横断研究では、リノール酸を1日に14.5g摂取したグループと1日に5.7g摂取したグループに分けて比較したところ、喘息の症状である喘鳴のオッズ比が1.2倍増加することが示されています。
リノール酸の摂取量
リノール酸はどのくらい摂るのが望ましいのでしょう。
1999年に作成された日本人の栄養所要量-食事摂取基準では、一日に摂取する総エネルギーの2.4%である、5~8g程度が1日の適正だとされていますが、国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the study of Fatty Accids and Lipids)では、エネルギーの2%である4~5gが適正とされています。
また、これ以上摂らないほうが良いという上限量の設定が食事摂取基準に設定されています。
厚生労働省が定める食事摂取基準では、1日に摂取する総エネルギー量の10%を上限量として定めています。
これはリノール酸の過剰摂取のリスクを考慮した上で設定されているようですが、『人において十分な根拠がそろっているわけではない』としているので、今後変更される可能性はあります。
結局、リノール酸は摂った方が良い?
「リノール酸は摂った方が良いの?」
よく聞かれる質問ですが、結論をいうと意識して摂る必要はありません。
逆に摂りすぎに注意してください。
日本脂質栄養学会の発表の通り、リノール酸に関する健康リスクが示されていますし、厚生省が定める食事摂取基準のリノール酸に関する摂取量についても『多量摂取時の安全性が危惧される』と記載されています。
したがって、自分から積極的に摂るようなことはやめて下さい。
また、注意したいのはサプリメントです。
「コレステロールに良いと聞いた」
といってリノール酸のサプリメントを利用している人を見かけますが、おススメできません。
サプリメントは特定の栄養素が強化して配合されているため、リノール酸サプリメントを摂る場合は過剰摂取になりやすくなってしまいます。
したがってリノール酸をサプリメントで摂る事は控えたほうが良いでしょう。
ただ、脂質はカラダにとって必要な栄養素であることは変わりませんから普段の食事から良質な脂質を摂ることは健康にとっても役立つことです。
そこで摂って欲しいのがリノール酸ではなく、『α-リノレン酸』です。
α-リノレン酸を摂ろう
日本脂質栄養学会によれば、亜麻仁油などに含まれる『α-リノレン酸』を摂取することでリノール酸の摂りすぎによる害を防ぐことができるとしています。
リノール酸とα-リノレン酸は、たがいに競合しながら働くため、α-リノレン酸を摂取することでリノール酸の影響を少なくすることができるのです。
またα-リノレン酸は摂取するとカラダの中で『EPA』や『DHA』といった成分に変化することがわかっており、これらは脳の健康や血管の健康に役立つ作用があります。
したがって健康のことを考えるなら、リノール酸ではなくα-リノレン酸を積極的に摂取するようにしましょう。
α-リノレン酸を多く含む食品
・エゴマ油
・亜麻仁油
・サンマ
・イワシ
・マグロ
参考
・日本脂質栄養学会 リノール酸摂取量の削減および油脂食品の表示改善を進める提言について
・浜崎智仁 脂質栄養学10(No.1)39-40
・厚生労働省 食事摂取基準 脂質83-84