炭水化物の食べる量を減らす『糖質制限食』は短期間で体重減少が見込めるとして、実践している方もいるのではないでしょうか。
中には糖質制限食を行いながら筋力トレーニングを実践しているという方もいるでしょう。
しかし、筋トレなどの無酸素運動と糖質制限食を組み合わせて行う場合、無酸素運動で十分なパフォーマンスが発揮できないという研究報告が2018年4月、米国セントルイス大学から発表されました。
※無酸素運動とは・・・短時間に強度の高い負荷をカラダに与える運動をいう。酸素を利用せずにエネルギーを発生させることから無酸素運動と言われる。筋力トレーニングや短距離走などが該当する。
※糖質制限食とは・・・食事に含まれる『糖質』の摂取量を減らした食事法のこと。具体的には糖質が多く含まれる、ごはん、パン、麺といった食品やお菓子類、ジュース類を控えることで摂取量を減らす。また、炭水化物=糖質と考えられがちだが、厳密には炭水化物は糖質と食物繊維から出来ている。
糖質制限食は無酸素運動のパフォーマンスを低下させる
セントルイス大学の研究では16名の男女(年齢23±1歳)を対象に炭水化物が少なく、脂質の多い内容の食事と、炭水化物の多い食事をそれぞれ食べてもらい、無酸素運動を行った時に与える影響を調べています。
具体的な低糖質の食事としては1日の炭水化物量を50g未満。そして高炭水化物の食事としては体重1kgあたり6~10gを摂取させ、エアロバイクを使った無酸素運動テストとyo-yo ntermittent recovery test(短距離を何回も往復する運動)を行うことでパフォーマンスの影響を評価しています。
この研究の結論として、『低炭水化物の食事は嫌気性エネルギーシステムに大きく依存する活動において、運動能力を低下させる』とされています。
つまり、炭水化物(糖質)を制限すると無酸素運動を行った時に十分なパフォーマンスを発揮することができないということです。
糖質制限は筋トレにも影響する可能性
この研究で行った研究は、エアロバイクや短距離走で行われたものであり、ベンチプレスやスクワットといったウエイトトレーニング(俗にいう筋トレ)をして評価されたものではありません。
しかし、ウエイトトレーニングも無酸素運動に位置付けられていることから、低炭水化物の食事(ケトジェニック)はウエイトトレーニングのパフォーマンスを低下させる事が考えられます。
よって、単に体重を落としたい場合にケトジェニックは有効かもしれませんが、ウエイトトレーニングで記録を伸ばしたい、重い重量をドンドン扱えるようになりたい、という場合は糖質は摂取していった方が良いと思われます。
どの程度の炭水化物を食べれば良いのか
炭水化物(糖質)は最もエネルギーとして利用しやすい栄養素ですから、アスリートなど結果を求める方の場合はしっかりと炭水化物を摂取していきたい所です。
ではどの程度の炭水化物を食べるべきなのでしょう。
厚生労働省が定める『日本人の食事摂取基準』では『総カロリーの50~65%』を炭水化物で摂取するよう紹介しています。
これを具体的な炭水化物の重量(g)に計算していくために下の摂取カロリー表を利用します。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
0-5(月) | ー | 550 | ー | ー | 500 | ー |
6-8(月) | ー | 650 | ー | ー | 600 | ー |
9-11(月) | ー | 700 | ー | ー | 650 | ー |
1-2歳 | ー | 950 | ー | ー | 900 | ー |
3-5歳 | ー | 1,300 | ー | ー | 1,250 | ー |
6-7歳 | 1,350 | 1,550 | 1,750 | 1,250 | 1,450 | 1,650 |
8-9歳 | 1,600 | 1,850 | 2,100 | 1,500 | 1,700 | 1,900 |
10-11歳 | 1,950 | 2,250 | 2,500 | 1,850 | 2,100 | 2,350 |
12-14歳 | 2,300 | 2,600 | 2,900 | 2,150 | 2,400 | 2,700 |
15-17歳 | 2,500 | 2,850 | 3,150 | 2,050 | 2,300 | 2,550 |
18-29歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,650 | 1,950 | 2,200 |
30-49歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,750 | 2,000 | 2,300 |
50-69歳 | 2,100 | 2,450 | 2,800 | 1,650 | 1,900 | 2,200 |
70歳以上 | 1,850 | 2,200 | 2,500 | 1,500 | 1,750 | 2,000 |
※身体活動レベルⅠ:デスクワーク中心。静的活動が中心の場合 Ⅱ:デスクワークが中心となるが、職場内での移動や作業・接客・通勤・買い物・家事・軽い運動等のいずれかを含む場合 Ⅲ:カラダを動かすことが多い仕事や立ち仕事、活発な運動習慣がある場合
例えば、筋トレなどの運動を日常的に行う30代女性(身体活動レベルⅢ)と仮定して計算していきましょう。なお、ここでは『炭水化物=糖質』という考え、摂取量は総カロリーの60%という考えのもと計算していきます。
計算方法は以下のように行います。
A:【アナタの適性カロリー】× 0.6 = 【炭水化物で摂取するカロリー】
B:【炭水化物で摂取するカロリー】÷ 4 = 【炭水化物の摂取重量(g)】
表を参考にすると30代女性(身体活動レベルⅢ)の適正カロリーは『2,300kal』。
これを上の計算方法Aにあてはめると、
2,300 × 0.6 = 1,380
つまり、よく運動する30代女性は、1日1,380kcalを炭水化物で摂れば良いということになります。
次に実際の炭水化物の重量(g)を求めるために計算方法Bにあてはめます。
1,380 ÷ 4 =345
よって、日常的に運動を行っている30代女性であれば1日に345gの炭水化物を食べることが目安になっていきます。
※さらに炭水化物の摂取量について知りたい人は『糖質は一日にどれくらい摂れば良い?適切な摂取量とは』というページで詳しく解説しています。
ただ、ここで導きだした糖質量が絶対ではありません。人によって個人差があるのは当然ですから、あくまで目安にし、自分の体調を見ながら増減するように調整した方が良いでしょう。
参考文献
Kymberly A. WROBLE , Morgan N. TROTT , George G. SCHWEITZER , Rabia S. RAHMAN , Patrick V. KELLY , Edward P. WEISS ;Low-carbohydrate, ketogenic diet impairs anaerobic exercise performance in exercise-trained women and men: a randomized-sequence crossover trial
厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)