管理栄養士のタイゾーです。
『睡眠負債』という言葉を聞いたことがありますか?
近年になって健康への影響が懸念されるようになったのが『睡眠負債』です。
睡眠負債とは、普段のちょっとした睡眠不足が積み重なっていく事をいいます。
近年の研究によって、この睡眠不足の積み重ねが様々な病気を引き起こす事がわかってきました。
そこで、このページでは睡眠負債を解消・予防するために役立つ食べ物や食事の知識について管理栄養士の視点から解説していきます。
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睡眠負債とは何なのか
まず、睡眠負債がどのようなものかをご紹介していきます。
睡眠負債とは1~2時間程度の睡眠不足が毎日続いてしまうことで、借金のように積み重なってしまうことをいいます。
「ちょっとの寝不足に問題があるの?」
と思うかもしれませんが、1日に2時間ほどの寝不足が借金のように積み重なると、やがて『債務超過』のような状態におちいって、がんや認知症などを発症する要因になるといいます。
現在、睡眠負債が引き起こすと考えられているリスクを下にまとめておきます。
- がん
- 認知症
- 糖尿病
- うつ病
- ヒューマンエラー(仕事のミスなど)
厚生労働省が定めた『健康づくりのための睡眠指針2014』の中にも、睡眠時間の不足や睡眠の質の低下が、がんなどの生活習慣病や、うつ病などの心の病につながることが紹介されています。1)
がん
現在、日本人の2人に1人はがんになると言われるほど多い病気が『がん』です。
睡眠負債は、がんも引き起こすリスクになるとされています。
睡眠不足が積み重なることによって免疫力が低下し、がん細胞が増殖するリスクになるとされています。
東北大学が20,000人以上を対象に7年間行われた追跡調査によれば、慢性的に睡眠不足になっている人だと、男性では前立腺がん発症率が1.38倍、女性の乳がん発症率は1.67倍になるというデータが示されています。
またアメリカのシカゴ大学で行われたマウス実験でも、睡眠を妨害したマウスでがん細胞が2倍の重さに増殖したという研究報告があります。
これによって睡眠負債によって免疫細胞の異常が引き起こされると考えられています。
糖尿病
糖尿病とは、血糖値が異常に高い状態が続く病気ですが、睡眠不足によってⅡ型糖尿病になりやすくなるとされます。
血糖値は、すい臓から分泌される『インスリン』というホルモンによって下がりますが、睡眠不足が重なるとインスリンの効き目が低下してしまい血糖値が下がりにくくなります。
これによって、睡眠負債は糖尿病になるリスクを高めると考えられています。
また国立精神・神経医療研究センターによれば逆に睡眠時間を長くすることが出来れば、空腹時血糖値の低下や、インスリン分泌能(HOMA-β)が増大して、糖尿病のリスクが低下することが分かっています。2)
うつ病やヒューマンエラーの引き金に
厚生労働省が定める『健康づくりのための睡眠指針2014』の中では、睡眠不足が『うつ病』や仕事でのミスっといった『ヒューマンエラー』を引き起こしやすくする事が示されています。1)
睡眠不足によって、思考力や記憶力、感情をつかさどっている、脳の『前頭前野』や『大脳辺緑系』という部分の活動が低下してしまいい、『コルチゾール』というストレスホルモンの分泌が活性化されてしまいます。
つまり睡眠不足がストレスを増やすということです。
アメリカの大学生を対象にした横断研究では、1,053人を対象に平均34年間追跡調査を行ったところ、睡眠不足によって、うつ病が発症するリスクが高まることが分かっています。3)
また、これは多くの人が経験しているかと思いますが、睡眠時間が少なくなると翌日の眠気がとれず、脳の働きが鈍くなることで仕事上でのミスといったヒューマンエラーを引き起こしやすくなります。
睡眠負債を解消するための食事
ここまで、睡眠負債が引き起こすリスクについてご紹介してきましたが、次に問題の睡眠負債を解消するために、快適な睡眠をとるために必要な食事や食べ物について管理栄養士の視点から紹介していきます。
朝食は食べるようにしよう
睡眠を十分にとるためには、朝食をとる事が重要です。
これには『体内リズム』というものが関わっています。
私たちが1日に活動していると、カラダでは一定の体内リズムというものが刻まれています。
このリズムがきちんと刻まれていることで、夜に眠気が誘発されしっかりと睡眠がとれるようになります。
この体内リズムを正しく刻むために朝食が重要なのです。
体内リズムは生活習慣で徐々に乱れやすくなりますが、朝食を摂ることで1度『リセット』されてまた正しいリズムを刻みやすくなります。
『健康づくりのための睡眠指針2014に基づいた保健指導ハンドブック』でも、朝食を食べていない学生ほど不眠を訴える割合が増加していることが示されており、朝食を食べることが推奨されています。4)
仕事などの都合で朝食を食べることが難しいという人もいるかもしれませんが、朝は例えバナナだけでもいいので食べる習慣をなんとか作るようにしてください。
朝食と健康の関わりは下記記事でも詳しく解説しています。あわせて参考にして頂くとより理解が深まります。
■朝食を抜くと脳出血になりやすい?!朝食を抜くデメリットとは
卵・肉・魚を食事に取り入れる
忙しいとついつい『麺類』や『おにぎり』といった早く食べれるものを摂りがちです。
もちろん、1食抜くよりは全然ましですが、とれるなら卵や肉、魚といったタンパク質が多い食材も取り入れたいところ。
タンパク質自体が健康的な食事に欠かせない栄養素ですが、質の良い睡眠を摂る上でも重要な役割があります。
具体的にいうと、卵・肉・魚に含まれるタンパク質を構成している『トリプトファン』という成分を摂取することで、質の良い睡眠につながると考えられます。
トリプトファンとはアミノ酸の一種で、タンパク質を構成している成分です。
このトリプトファンを摂取すると体内で『セロトニン』というホルモンの材料になります。さらにセロトニンは、眠気を誘発させる『メラトニン』に変わります。
夜にメラトニンがしっかりと分泌される事でしっかりと睡眠がとれるようになると考えられているのです。
つまり『メラトニンを作るために、材料となるトリプトファンは摂取しておこう』ということです。
そのために、特に夕食時には卵、肉、魚のどれか1品は盛り込みたいところです。
寝れない時はホットミルクを試してみて
「夜寝れない・・・」
という人に私が個人的にオススメしているのがホットミルクです。
先に紹介したメラトニン分泌の材料となるトリプトファンは牛乳にも含まれています。これを温かくして飲むことでカラダも適度に温まり、寝やすい環境になります。
もちろん効果・効能を保証するものではありませんが、寝れないという人は一度試してみると良いと思います。
夕食以降はカフェインは摂らないように
「コーヒーが眠気を覚ます」というイメージを持っている人も多いと思います。
コーヒーやお茶に含まれるカフェインには覚醒作用があり、十分な睡眠を摂るための障害となります。
厚生労働省が定めている、『健康づくりのための睡眠指針2014に基づいた保健指導ハンドブック』の中には、20~30代を対象に就寝の1時間前にカフェインを摂取させた所、カフェインを摂取しなかったグループは入眠時間が約7分ほどであったのに対し、カフェインを摂取したグループは入眠時間が約24分もかかるというデータが示されています。4)
同資料によると、血液中のカフェインの濃度は30~1時間程度でピークに達し、3~5時間ほどで効果が半減していきます。
したがって睡眠負債を解消していくためには、寝る前のコーヒーは絶対厳禁と言えるのです。
カフェインの効果が薄くなっていく時間を考えると、少なくとも夕食以降はコーヒーや緑茶といったカフェインが含まれた飲料は飲まないようにした方が良いでしょう。
ノンカフェインのものであれば特に問題ありません。
今回、睡眠負債と食事の関わりについて解説していきました。睡眠不足と栄養の関わりは下記ページでも解説しているのであわせて参考にして頂くとより理解が深まります。
参考にさせて頂いた文献
1)厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014
2)国立精神・神経医療研究センター Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt(Scientific Reports 2016.10.24)
3)ChangPP,Ford DE,MeadLA,Cooper-Patrick L,Klag MJ.Insomnia in young men and subsequent depression.The Johns Hopkins Precursors Study.Am J Epidemiol 1997;146:105-114
4)健康づくりのための睡眠指針2014に基づいた保健指導ハンドブック
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